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【CEOコラム】ファッショントレンドから読みとくZ世代グローバル人材の就職観 - Quiet Luxuryの流行から得られる、日本企業のグローバル人材採用への示唆

更新日:4 日前

Quiet Luxury

近年の世界経済の減速や高金利、インフレ、社会不安の高まり等を背景に、消費者の価値観は大きく変化している。特に欧米諸国や日本のZ世代の間では、「Quiet Luxury(クワイエット・ラグジュアリー)」が注目を集めている 。Quiet Luxuryとは、華美なロゴやブランドを避け、上質な素材や仕立て、時代を超越したデザインを重視するスタイルである。これらのトレンドは、学生の就職観にも大きな影響を与えている。本記事では、ファッショントレンドとZ世代グローバル人材の就職先選好の関係性について触れた後、Quiet Luxuryトレンドの詳細について記載し、アメリカおよび欧州における当トレンドの解釈の違いから考察する採用ブランディングのアプローチについて、実際の人気就職先企業等も分析しながら記載していく。



なぜファッショントレンドがZ世代グローバル人材の採用戦略に影響を及ぼすのか?


まず最初に、ファッショントレンドと採用の関係性について述べる。就職活動を学生が始める際に、よく周りから言われる言葉としては以下のようなものがある。

自分に合った就職先を見つけよう
自分らしさを発揮できる環境で働こう

これらは事実である。なぜなら個人の性格やスキルが労働環境やジョブデスクリプションと合わない場合、その人が生み出す価値は最大化されにくく、その結果、周りからの評価や給与も十分に得られなくなる恐れがあるためだ。これは企業、学生双方にとって不幸な事態といえる。

しかし、この前提がありながらも、たとえば日本ではコンサルティング業界や金融業界、総合商社などに応募者が殺到する。なぜだろうか。その背景には、ファッショントレンド的価値観、すなわち「ブランド消費」の意識が関係している。

近年、転職機会の増加やビジネスSNS(LinkedInなど)の普及によって、他人の経歴・職歴を目にする機会が格段に増えた。結果として、自らの経歴・職歴がある種「ブランド化」する現象が起きている。この「職歴ブランド」は、給与や仕事内容、労働環境、労働時間、入社難易度、勤務場所、社会への影響力、世間の評価、扱うプロダクト・サービスなど、さまざまな要因によって構成される。

特に新卒採用は、人生で最初に手に入れる「職歴ブランド」となり得る。ここで得たブランドは以後のキャリアで他人から何度も参照されるため、学生自身のブランド意識が強まり、結果として就職先選好が「ブランド消費」的な方向へ傾く傾向があるのだ。

こうした背景を踏まえると、日本でコンサルティング業界や金融業界、総合商社業界に人気が集まる要因には、応募者数が非常に多く選考倍率が高いこと、給与水準の高さ、人材要件の厳しさなどが絡み合い、これらが業界全体のブランド価値を押し上げている可能性が高い。

もちろん、どの要素にブランド価値を感じるかは個人差があるし、時代や地域によっても異なる。しかし、母集団全体の就職先選好を分析するとき、地域特有のブランド消費傾向、すなわちファッショントレンドが大きな示唆を与えてくれる。そこで本記事では、まさに現在進行形で拡大しているQuiet Luxuryというトレンドに注目し、その分析を通じて採用ブランディングへのヒントを探る。



Quiet Luxuryとは?


Quiet Luxuryとは、控えめな上品さと洗練された消費を特徴とするライフスタイルである。露骨な富の誇示を避け、エクスクルーシビティ(限定性)と目の肥えた趣味を重視する*1。Quiet Luxuryの美学は、派手なロゴやブランドではなく、落ち着いた色使いと高品質な素材、そして職人技と時代を超越したデザインを重視するところにある。ステルスウェルスが富を隠すことを意味するのに対し、Quiet Luxuryは富をさりげなく示すことを意味するという点で、両者の間には違いがある*2



欧米諸国におけるQuiet Luxuryのトレンド


欧米諸国では、Quiet Luxuryが流行中である。以下に、アメリカおよびイギリスにおけるQuiet LuxuryのGoogle検索回数トレンドグラフを記載する*3


図1:アメリカにおける"Quiet Luxury"の検索回数推移(Google)(2022年1月4日~2025年2月4日)

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図2:イギリスにおける"Quiet Luxury"の検索回数推移(Google)(2022年1月4日~2025年2月4日)

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以上のGoogle Trendsのグラフからも分かる通り、2023年中旬頃から流行になり始めたQuiet Luxuryは、トレンドの過熱時期は過ぎたものの、依然検索回数は多く、トレンドとなっている。

またQuiet Luxuryは特にZ世代学生の間でトレンドとなっている。例えばTikTokでは「#quietluxury」のハッシュタグが付いた動画の再生回数は2億6600万回を超えている*4。事実、ミレニアル世代などの上の世代よりもZ世代の方がラグジュアリー市場からの影響を約3倍ほど受けているといったデータもある*5ことから、Z世代によるQuiet Luxuryへの関心の高さが窺える。



アメリカと欧州のZ世代におけるQuiet Luxuryの解釈の違い


まず様々なソースにおいてQuiet Luxuryのトレンドの背景が述べられているが、忘れてはいけないのが、Z世代は環境への貢献意識よりも、自分の利益を優先しようとする意識が高齢層と比べて高い、というEYのリサーチ結果である*6。このリサーチ結果を前提におけば、Quiet Luxuryトレンドの背景として良く語られる、"サステナブルな製品やサービスがZ世代から選好されやすい"という事実は、"環境への貢献を意識していること"ではなく、"価値・品質面が優れている感覚や、情緒的に良い・他者に認められる感覚"に起因していると推測できる。

そのため、Z世代は自己利益の追求を行う傾向にあるという背景を踏まえた上で、このQuiet LuxuryトレンドがどのようにZ世代から解釈されているのかを追究する(すなわち倫理的観点や貢献意識の強弱等については度外視する)。特に、欧州とアメリカでは当トレンドの解釈が異なる現象が散見されるため、当解釈の違いを考察した上で、企業の採用戦略策定に有用となり得る示唆を述べる。


まず、以下にアメリカおよび欧州におけるQuiet Luxuryの解釈を記載する。


  • アメリカのQuiet Luxury: 表面的なロゴやブランドシンボルを押し出さない「隠れた富の象徴」という側面が強い。

  • 欧州のQuiet Luxury: 長年培われた文化的・歴史的価値観に基づく「本質重視・クラフトマンシップへの共感」に近い。


アメリカでは富や地位を誇示するための消費行動(=顕示的消費)が長年文化の一部となってきた*7。そうした中で、アメリカにおけるQuiet Luxuryトレンドの火付け役となったドラマシリーズ「Succession」が2023年に流行して以降、ドラマで取り上げれている「オールドマネー」(Old Money)のライフスタイルが富の象徴となり、あからさまなロゴやブランド主張よりも、質が高いシンプルなデザインが選好される傾向となっている*8

言い換えれば、Quiet Luxuryなスタイルを選ぶことで“ブランドをあえて隠す”高級志向を演出し、結果的に「本質志向」を掲げながらも、富やステータスを示す行為として捉えられている。


一方で、欧州におけるQuiet Luxuryの解釈は異なる。そもそも欧州におけるラグジュアリー消費はオールドラグジュアリーの概念に基づくものであり、伝統と職人の技術にルーツを持ち、欧州的な気品、代々続く富と社会的地位に結びついたモノや経験の消費行動がベースとなっている*9。具体的には、ブランドの質やクラフトマンシップ、歴史に価値を感じ、文化的なヘリテージや細部にまで気配りのあるプロダクトを好むというものである*10 Quiet Luxuryというトレンド自体、アメリカに端を発し、欧州に輸入されたトレンドであるが、そのトレンドのルーツ自体は欧州のオールドラグジュアリーにあるものであり、むしろ逆輸入されている状態なのである。

すなわち、Quiet Luxuryという消費トレンド自体は存在するものの、それ自身従来の欧州における"ラグジュアリー消費"の考え方と同義であり、結果として、Quiet Luxuryが元々のオールドラグジュアリー消費の概念を通して解釈されている。



日本企業へのグローバル人材採用(特に採用ブランディング)に対する示唆 - アメリカと欧州


前章の内容から、地域によって採用ブランディングで強調すべき要素が異なることが見えてきた。以下ではQuiet Luxuryトレンドを踏まえた全体的な示唆を述べたあと、アメリカと欧州の学生への具体的なアプローチの違いを整理する。


1. Quiet Luxuryが示唆する「生活の質(Quality of Life)」の重視


Quiet Luxuryトレンドから明らかなのは、労働によって得られる「生活の質」を重要視する風潮が世界的に高まっているということだ。アメリカでは、高い生活の質は富の象徴として扱われ、欧州では生活の質自体が労働の目的になり得る。ここで言う「生活の質」には、大きく「プライベート」と「勤務」の2軸がある。


  • プライベート面

    給与や福利厚生、労働時間、休暇の取りやすさ、勤務場所の魅力など、私生活を充実させる要素が含まれる。日本は生活の質インデックスや安全性インデックスでG7諸国トップクラス*11であり、こうした要素をうまく訴求することで競争力を高められる。

  • 勤務面

    オフィス環境や人間関係、仕事内容、リモートワークの有無などが含まれる。特に海外のZ世代は、企業の公式動画(たとえば「Day in the life」)を参考にして勤務の実態をイメージする場合がある*12。こうしたコンテンツを活用して、「働く環境の質」を具体的に伝えることが効果的だ。


2. アメリカのZ世代グローバル人材へのアプローチ


アメリカのZ世代グローバル人材の採用においては、上記の内容に加えて、彼らにとって当社への就労が"ステータス"となるような見せ方をすることが重要である。ステータスとは、いわゆる富を連想させるような要素であり、給与は勿論のこと、"優秀な学生が多く集まる"や、"入社するのが難しい"、

"扱っているプロダクト・サービスが有名"、"楽しい労働環境を提供している”など様々な観点から構成される。実際、Universumが発表した「Most Attractive Employers 2024」によれば、USのビジネス専攻の学生における就職人気ランキング1位から10位の企業は、そうした要素を含んだ企業の顔ぶれとなっている(以下参照)*13


1位 JPMorgan Chase

2位 Google

3位 Apple

4位 Goldman Sachs

5位 Nike

6位 Netflix

7位 Spotify

8位 Microsoft

9位 The Walt Disney Company

10位 Amazon


日本企業は給与面で欧米企業に劣る場合が多いが、プロダクトや技術力で優位性を持つ企業は少なくない。たとえ最初は「ニワトリと卵」状態であっても、世界トップクラスの学生を地道に採用し、優秀人材が集まるイメージを形成しながら日本で働く魅力や自社プロダクトをアピールしていくことで、「ステータス」として認識される可能性は高まる。

3. 欧州のZ世代グローバル人材へのアプローチ


欧州のZ世代グローバル人材にもアメリカ同様ステータスの概念はあるが、それだけでなく、「ヘリテージ」を軸にしたストーリーを提示することが重要である。実際、欧州諸国のZ世代からは伝統や職人技、歴史や文化的背景を重視する企業が人気を博す傾向がある。以下にフランス、イタリアおよびドイツのビジネス専攻(イタリアはビジネス/経済)学生における就職先人気ランキング1位から10位を記載する。


フランス*14

1位 LVMH

2位 L'Oréal Group

3位 Hermès

4位 Apple

5位 Chanel

6位 Google

7位 J.P. Morgan

8位 Mercedes-Benz Group

9位 Goldman Sachs

10位 Air France


イタリア*15


1位 Apple

2位 Intesa Sanpaolo

3位 Ferrari

4位 Google

5位 European Central Bank

6位 UniCredit Group

7位 Prada

8位 J.P. Morgan

9位 Gucci

10位 Amazon


ドイツ*16


1位 Porsche

2位 Mercedes-Benz Group

3位 BMW Group

4位 Apple

5位 Audi

6位 Google

7位 McKinsey & Company

8位 Lufthansa Group

9位 Siemens

10位 Microsoft


上記の顔ぶれを見て分かる通り、欧州においてはヘリテージのあるプロダクトや会社自体にヘリテージのある企業の人気が高い。

実は、日本は「創業100年以上」「創業200年以上」の企業数で世界一を誇っており*17、ヘリテージを持つ企業が極めて多い。こうした歴史や伝統を採用ポジションやキャリアパスと関連づけたストーリーを発信すれば、欧州の優秀なZ世代グローバル人材を惹きつけることが可能となるであろう。またキャリアパスの面では、短期的な利益追求に終わらず、長期的に価値を生み出す人材育成やキャリア形成プランを「企業のヘリテージの延長線上」に位置づけて提示することが有効だろう。



まとめ


以上が、欧米諸国でのQuiet Luxuryトレンドから得られる、日本企業が欧米圏のZ世代グローバル人材を採用する際の示唆である。もちろん、これはあくまで「考慮すべき要因のひとつ」に過ぎず、実際に学生が就職先を決定するプロセスには複数の要素が影響する。しかし前述のとおり、キャリアパスが一種の「ブランド」として可視化される時代において、ブランド消費の観点が就職先の意思決定に絡んでいるのは間違いない。採用担当者としては、学生の「建前」だけでなく、こうした「本音」の部分も把握しながら採用戦略を検討することが重要である。

弊社Jelper Clubでは、欧米諸国のトップ学生が持つ就職ニーズや情報収集の実態について、豊富な知見を有している。海外大生や外国人採用をご検討中の企業の方は、ぜひお気軽にご相談いただきたい。



(執筆・編集:Jelper Club CEO 光澤大智)



出典


1. "'Quiet Luxury' Becomes a Flex for the Ultrarich" (The New York Times): https://www.nytimes.com/2023/07/22/style/quiet-luxury-wealth-status.html


2. "Stealth Wealth Vs. Quiet Luxury: The Difference, Explained" (Glam): https://www.glam.com/1330882/stealth-wealth-quiet-luxury-difference/



4. "Echoes of Subtlety: Quiet Luxury, Succession, and Gen Z’s Stand Against the Noise" (Medium): https://medium.com/@chestrwishlist/echoes-of-subtlety-quiet-luxury-succession-and-gen-zs-stand-against-the-noise-455692456858



6. 「“環境にやさしい”で消費者はお金を払うか?」(EY):https://www.ey.com/ja_jp/insights/consulting/will-consumers-pay-for-environmentally-friendly



8. 「HBO超人気ドラマ「Succession」がけん引!2023年米国ファッショントレンド「クワイエット・ラグジュアリー」ってなに?」(神田外語キャリアカレッジ):https://www.kandagaigo.ac.jp/kgcc/1177-2/


9. 「講演:ラグジュアリー――顕示的浪費から感覚的快楽まで」(ヴァレリー・スティール):https://www.kci.or.jp/articles/files/D54_Steele_Luxury_Conspicuous_Extravagance.pdf


10. "The Luxury Consumer: A Comparison between American, European, Middle Eastern, and Asian Consumers" (Luxonomy): https://luxonomy.net/the-luxury-consumer-a-comparison-between-american-european-middle-eastern-and-asian-consumers/


11. “Quality of Life Index by Country 2024” (NUMBEO):https://www.numbeo.com/quality-of-life/rankings_by_country.jsp?title=2024 ; “Global Peace Index 2023” (Institute for Economics & Peace):https://www.economicsandpeace.org/wp-content/uploads/2023/09/GPI-2023-Web.pdf


12. "What is the Class of 2024 looking for in a job?" (Handshake): https://joinhandshake.com/network-trends/class-of-2024-graduation/#2-1


13~16. "Most Attractive Employers 2024" (Universum): https://universumglobal.com/rankings/united_states/business/students/


17. 「世界の長寿企業ランキング。創業100年企業、日本企業が50%を占める」(日経BPコンサルティング・周年事業ラボ):https://consult.nikkeibp.co.jp/shunenjigyo-labo/survey_data/I1-06/



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