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日本企業が今後本当に危惧すべきなのは、「国内若手優秀層の減少」である

"日本が抱える一番深刻な社会問題は何か?"


この問いに対し、多くの国民が真っ先に頭に思い浮かぶのは少子高齢化でしょう。少子高齢化に伴う国内の労働人口減少および高齢者の増加は、日本経済の縮小をもたらすだけでなく、社会保障制度の崩壊をもたらすものでもあります。

そんな中で、日本企業にとっても当問題は勿論深刻でありますが、今後本当に危惧しなければならないのは、少子高齢化に伴う国内最優秀層の減少であると考えております。当減少により、日本の企業にとって国内のみで優秀な若年層を採用するのが今後ますます困難になっていきます。しかし、こうした主張に対し、日本企業側からは以下のような言葉が挙がってきます。

"(少子高齢化で若年層の人口が減る)とはいえ、うちは新卒採用の倍率も高く、各代の優秀な学生が入ってくるから問題ない"
"新卒採用では頭の良しあしはそこまで重要ではないので、少子高齢化で優秀層が減ったとしても問題はない"

しかし、そうした企業の現場担当者からは以下のような意見も挙がってきます。


"最近、優秀な新卒が減った気がする"
"昔と比べてコミュニケーションがうまく取れる若手が少なくなった"

こうした意見を咀嚼していくと、実は企業側が気づかぬうちに、今まで採用できていた優秀層が採用できなくなっている、という現状が垣間見えます。当記事では、この非常に気づきにくい「国内若手優秀層減少」という現象について、定性的・定量的な角度から解明していきます。



そもそも日本人の大学生は減っているのか?


少子高齢化による若年層の減少がもたらす新卒採用への影響というトピックに対して、企業担当者からの意見として挙がるのは、「日本では大学進学率が高くなっているので、若年層は減少しても大学生の数自体はそこまで変わらない。なので新卒採用への影響はない」というものです。果たしてこの主張は正なのでしょうか?

以下に弊社側で算出した、18歳人口および18歳人口を母数とした大学進学率、大学進学数の実績値/予測値のグラフ(全体・男女別)を記載します*1 *18歳人口の予測は2015年~2022年の減少率の7乗根(男女別)を対前年度比と定義し予測値を出したため、指数関数的に若年層が減少している近年のトレンドに対し、保守的な対前年度比を使用していることに留意


図1:18歳人口・大学進学率・大学進学人数の推移および予測(2015年~2040年) - 全体



図2:18歳人口・大学進学率・大学進学人数の推移および予測(2015年~2040年) - 男性


図3:18歳人口・大学進学率・大学進学人数の推移および予測(2015年~2040年) - 女性


上記の数値を見て分かる通り、国内大学進学数は2040年にかけて緩やかに減少することが予想され、2040年の国内大学進学数は、2023年の値より約10%減少するといった予測結果が出ています。2040年の国内の18歳人口合計は2023年と比較して約15%減であるため、その傾きよりは小さいです。それは国内の大学進学率が伸びていることに起因しています。

この大学進学率の伸びと、国内大学進学数の減少には、一体どういった背景が隠されているのでしょうか。次の項では、18歳人口推移や大学進学率を就職率や世帯所得と比較しながら、当背景について究明していきます。



近年上昇傾向にある大学進学率の背景と、それに紐づく国内優秀層の減少


大学進学率に影響を及ぼす説明変数として考えられるものは多く存在しますが、一般的に考えて関係が深そうな説明変数は「企業への就職」および大学進学を実現するために必要な「世帯収入」だと仮定し、以下に当2つの説明変数の推移および2010年~2023年までの大学進学率のグラフを記載いたします。


図4:就職率および大学進学率の推移(2010年~2023年) *2


上記のグラフを見ると、「就職率」と「大学進学率」、および「児童のいる世帯の平均所得」と「大学進学率」の間に一定の相関関係があることが分かります。実際、前者の相関係数rは約0.51、後者の相関係数rは0.84であり、特に後者は強い相関関係にあるといえます。

この相関関係の背景として、前者においては企業が求めるスキルセットが技術発展等により質的なものへと移り変わっていったことに起因し、大学教育の受講有無がより就職活動において重要になったことが考えられます。 後者については、就職率と児童のいる世帯の平均所得の相関係数rが0.86であり、こちらについても強い相関関係にあることや、前者の要因や18歳人口の減少、それから全世帯の平均所得が過去13年間で殆ど変化していない傾向を踏まえると、近年高卒では就職が難しく、子供が十分な職を得て自立していくには大学入学が必要であるため、想定される教育費が昔よりも高くなり、所得が低い世帯が児童を持たなくなった(あるいはそもそも結婚しなくなった)結果、全体の子供の数も減っている、かつ子供を持つ世帯は予め大学入学を想定して子育てをしているため、子供を大学へと進学させる家庭の割合は自動的に高くなった、ということが考えられます。言い換えれば、現状そもそも世帯所得が低い世帯は子供を持たない傾向にあるため、本来優秀な学生として育ったかもしれない層(昔であれば、元々高卒を検討していたが、優秀であったために大学へ進学した層など)のボリュームが小さくなっている可能性が高いということです。

勿論、国や大学側が提供する奨学金など、年収が低くても大学に進学できるような制度は充実しておりますが、国内の18歳人口の減少等を鑑みると、そもそも児童を持たないという選択肢を取っている家庭が一定数存在するため、当段階での量的・質的な機会損失が発生していることが窺えます。



日本人優秀層の海外大学進学増加


そして最後に、上記のような背景を踏まえて育った優秀な国内の子供たちが近年、国内ではなく海外のトップ大学へと進学している傾向について考察します。近年、当傾向を主張する国内メディアが増えています。以下に例を記載いたします。

"今後、海外大を志望・進学する生徒は増えるのだろうか。予想は難しいが、今の日本の教育・経済・研究の状況は海外に比べて必ずしも良いとはいえない。進学先の候補に国外の大学を含めるのは自然なことなのかもしれない"(「海外大への進学 コロナ禍経て相談増える」(日本経済新聞 2023年11月11日)*3
現在、高校卒業後の進学先として、日本国内の大学ではなく、海外の大学へ進学する生徒が増加傾向にある。かつてはインターナショナルスクールや一部の私立高等学校を卒業し、海外の大学へ出願するというルートが一般的だった。しかし、今では選択肢が増え、さまざまなルートから海外の大学に進学する動きが活発化しているのだ(東洋経済オンライン 2021年5月29日)*4

こういった論調は真実なのでしょうか?以下に優秀な学生が多く集まり、日本で最も海外大学進学者が多い高校の一つとして知られる広尾学園中学校・高等学校の海外大学合格者数および海外の機関が把握する日本人留学者数(主に長期留学)の推移グラフを記載します。


図5:広尾学園の海外大学合格者数および海外の機関が把握する日本人留学者数(主に長期留学)の推移(2013年~2021年)*5


当グラフを見ていくと、長期留学を行っている日本人留学者数は、そこまで増えているわけではなく、むしろコロナ禍を境に減少傾向にある一方、広尾学園は海外大学への合格者数を2013年以降大幅に増やしている。なお当2指標の相関係数rは-0.63であり、強い逆相関がみられます。このことから導き出せる結論は、「日本人の留学者数は減っているが、日本人優秀層による海外大学への合格者および進学者数は増えている」ということです。勿論、アメリカなどでは就労ビザが取りにくいなどの事情で多くの海外大学に進学した日本人が日本での就職を行いますが、それでも本当に優秀な学生については、現地企業がグリーンカード発行に向けた支援等を行うため、最優秀層の海外流出はまぬがれないでしょう。



まとめ


上記で言及した内容をまとめると、いま日本国内の高校生の優秀層で起きている現象は以下の2つです。


・企業から求められるスキルセットの変化による大学進学の必要性の高まりに起因した、教育コストの高騰と、それに伴う潜在優秀層育成家庭の減少

・国内優秀層の海外大学進学増加による、国内最優秀層の海外流出


上記の傾向は、直近の円安による物価高騰や日本国内の絶対給与の低下により、今後益々高まってくることが予想されます。それに伴い、長いスパンで、日本企業の担当者が気づかぬうちに国内のみでの若手タレントの採用も難しくなってくるでしょう。勿論、採用担当者の現場レベルに課せられたKPIには、こういったトレンドが加味されていないケースが多いと思いますが、採用施策に関する決裁者は、しっかりと当現実を直視し、中長期的に採用競争に負けないための施策を今から検討するべきであると考えております。

そうなった際に海外トップ学生(特に外国籍)の採用は、非常に有効な打ち手となるでしょう(参考:https://corporate.jelper.co/post/why-japanese-companies-should-hire-top-overseas-student)


もし中長期的な新卒採用戦略についてお悩みの方は、弊社までお気軽にご相談ください。



(執筆・編集:Jelper Club編集チーム)



出典・注記


1. 「学校基本調査」(文部科学省):https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00400001&tstat=000001011528 ; 「大学への進学者数の将来推計について」(文部科学省):https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/042/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/03/08/1401754_03.pdf ; 「人口統計資料集」(国立社会保障・人口問題研究所):https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2023RE.asp?chap=0 ; 2010~2014年は、年齢別の大学進学数のデータがないため、「大学への進学者数の将来推計について」における2015年~2022年の文科省予測の数値と実績値の乖離係数の平均を文科省発表(同資料)の進学率実績に乗じて男女別および全体の国内大学進学率を算出し、当数値を該当年の18歳人口に乗じて算出; 2023年以降の18歳人口=2010年~2022年までの人口増減率の12乗根=2023年度以降の18歳人口対前年度比と仮定し算出; 日本人の大学進学数=大学進学数合計-留学生数


2. 「学校基本調査」(文部科学省):https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00400001&tstat=000001011528 ; 「各種世帯の所得等の状況」(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf ; https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa23/dl/03.pdf ; 2019年の世帯収入数値は、2020年の調査未実施の影響で数値がとれていないため、2018年の世帯収入を2010年の数値で除した上で8乗根し、それを対前年度比と仮定して2018年の値に乗じることで算出。2023年の数値も同様に、2022年の世帯収入を2010年の数値で除した上で12乗根し、それを対前年度比と仮定して2022年の値に乗じることで算出。


3. 「海外大への進学 コロナ禍経て相談増える」(日本経済新聞社):https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD06BQY0W3A101C2000000/


4. 「高校生「日本を捨てて海外大学」が激増の理由」(東洋経済オンライン):https://toyokeizai.net/articles/-/426167


5. 「合格実績」(広尾学園中学校・高等学校):https://www.hiroogakuen.ed.jp/info/goukaku.html ; 「「外国人留学生在籍状況調査」及び「日本人の海外留学者数」等について」(文部科学省):https://www.mext.go.jp/content/20240524-mext_kotokoku02-000027891.pdf

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