近年、世論を沸かす「外国人労働者」の存在。日本国内の外国人労働者数は2023年に200万人を突破しました。2019年と比べて23.5%増、15年前の2008年と比較すると実に4倍以上となっています。業種別にみていくと、外国人労働者が最も多い業種は製造業(552,399人)となっており、対前年増加率が最も高い業種は建設業(対前年比24.1%増)となっております*1。また、帝国データバンクが2024年1月に実施した「人手不足に対する企業の動向調査」によれば、正社員の人手不足割合が一番高かったのは情報サービス業(77%)で、次いで建設業(69.2%)となっております*2。建設業には"3Y業務"と呼ばれる、「やる人がいない、やりたくない、やらせたくない」業務が多く、それに起因して人手不足が発生しているとされています*3。そうした中で外国人労働者が増えているというのは、結果的に"3Y業務"を外国人に担ってもらおうとしている企業が多いということです。外国人労働者は単に"3Y業務"を担ってもらうためだけに必要なのでしょうか?筆者の答えは勿論"No"です。その理由としては主に2点あります:
採用母集団の質の向上
ダイバーシティ・マネジメントの推進
本記事では、人手不足の解消といった観点以外で、日本の企業が外国人労働者を採用すべき上記の理由2点および、外国人採用に対する国からのサポートについて具体的に解説していきます。
1. 採用母集団の質の向上
至極当然の話ではありますが、日本のみならず海外にまで採用母集団を広げることにより、より高い専門性を持った人材に出会えます。特に労働人口の減少や働き方改革などの影響により、国内の採用競争が熾烈になっている中で、母集団を国内から海外に広げることで、一気に採用母集団の拡大および採用競争率の低下を図ることが可能です。
そういった至極当然な論を唱えた際に反論意見として頻繁に上がるのが、「多くの優秀な外国人は日本を選ぼうとしない」といった類のものです。「日本の給与が低い」「東南アジアと比較しても低い」というのが主な理由として上がります。確かにこの円安トレンドのご時世において円換算した絶対値で比較すると、そうした数値が上がってくるのは事実であります。しかしながら、以前弊社が公開した記事においても言及している通り、「対物価平均名目時給」といういわゆる労働のコスパを測る指標で捉えると、日本の給与は決して低くないことが分かります(参照:「世界トップ学生の就職活動2024 - 日本企業が世界の新卒採用競争を制するためのガイドライン(前編)」/https://corporate.jelper.co/post/recruitment-guideline-topstudents-first)
勿論、アメリカやシンガポールなどの絶対値の平均給与が高いのは事実であり、多くの外国人がそういった国を目指しています。しかしながら日本を目指す外国人は決してマイノリティではなく、むしろ様々なマクロ情勢により、近年就職先の国として注目を集めはじめています。更には優秀な外国人の多くが日本のそういった良さやマクロ情勢を理解しているため、日本を就職先として目指す傾向にあります。本件についても弊社が公開した記事にて説明しているため、詳細はそちらを参照してください。
2. ダイバーシティ・マネジメントの推進
少子高齢化に伴う国内市場の縮小により*4、今後日本企業にとってグローバル化は避けられない命題であるといえます。グローバルで事業を展開していくには、海外の市場に対する定性・定量的な理解および事業のローカライズを進めていく必要があります。そうした際に単一的な価値観を持った人が集まるチームではなく、多様な価値観を持ったチームを形成していきながら事業を進めていくことで、市場に対する解像度を上げやすくなるでしょう。また、多様な価値観や能力、いわゆる深層的なダイバーシティが担保されたチームはより意思決定プロセスの質や課題解決力、創造性、チームパフォーマンスも上がることが分かっております*5。
勿論日本人の中でも価値観や能力はバラバラであり、日本人のみの採用によっても深層的なダイバーシティを持たせることができるといえます。しかしながら、やはり日本で生まれ育った人を採用する以上、どうしてもそうした価値観や能力を広い枠組みで捉えると類似するケースが多く、そうした際に海外で生まれ育った外国人を採用することは、深層的なダイバーシティを担保する上で非常に効果的であると言えます。そういった観点から、外国人採用はチームパフォーマンスの向上において非常に重要であると言えます。
以上が日本企業が外国人を採用すべき2つの理由の具体的な背景となります。採用母集団の質向上およびダイバーシティ・マネジメントの推進は、中長期的な経営パフォーマンスへのインパクトが大きくなることが予想されるため、日本企業としては是が非でも取り組みたい内容であります。しかしながら、それでも依然外国人の受け入れに対し躊躇する企業が多いのが実情でしょう。
そうした企業に対し、日本政府は様々なサポートを提供しています。以下に国が提供しているサポートの具体例を記載します。
(例)厚生労働省「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」
概要:
外国人特有の事情に配慮した就労環境の整備を行い、外国人労働者の職場定着に取り組む事業主に対して、その経費の一部を助成する助成金であり、以下の受給要件をすべて満たした場合に、支援対象経費の合計額に助成率を乗じた下表の額が支給されます*6。
受給要件:
(1)外国人労働者を雇用している事業主であること
(2)認定を受けた就労環境整備計画に基づき、外国人労働者に対する就労環境整備措置(1及び2の措置に加え、3~5のいずれかを選択)を新たに導入し、外国人労働者に対して実施すること
雇用労務責任者の選任
就業規則等の社内規程の多言語化
苦情・相談体制の整備
一時帰国のための休暇制度の整備
社内マニュアル・標識類等の多言語化
(3)就労環境整備計画期間終了後の一定期間経過後における外国人労働者の離職率が10%以下であること
※このほかにも、雇用関係助成金共通の要件などいくつかの受給要件がありますので、詳しくは厚生労働省にお問い合わせください。
受給額:
受給要件をすべて満たした場合に、支給対象経費の合計額に助成率を乗じた下表の額が支給されます: 賃金要件を満たしていない場合:支給対象経費の1/2(上限額57万円) 賃金要件を満たす場合:支給対象経費の2/3(上限額72万円)
支給対象経費: 計画期間内に、事業主から外部の機関又は専門家等(以下「外部機関等」といいます)に対して支払いが完了した以下の経費を対象とします。
通訳費(外部機関等に委託をするものに限る)
翻訳機器導入費(事業主が購入した雇用労務責任者と外国人労働者の面談に必要な翻訳機器の導入に限り、10万円を上限とする)
翻訳料(外部機関等に委託をするものに限り、社内マニュアル・標識類等を多言語で整備するのに要する経費を含む)
弁護士、社会保険労務士等への委託料(外国人労働者の就労環境整備措置に要する委託料に限り、顧問料等は含まない)
社内標識類の設置・改修費(外部機関等に委託をする多言語の標識類に限る)
上記のような助成金などの国からのサポートを活用することで、より外国人の受け入れのハードルが下がるでしょう。
そうしたサポートをうまく活用しながら、今後のグローバル化に向けた外国人の採用を推進していくことを推奨いたします。
(執筆・編集:Jelper Club編集チーム)
出典・注記
1. 「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)」(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37084.html
2. 「人手不足に対する企業の動向調査(2024年1月)」(帝国データバンク):https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p240209.pdf
3. 「「やりたくない仕事」を外国人に押し付ける日本に、海外の高度人材は来ない」(Business Insider):https://www.businessinsider.jp/post-180963
4. 「少子化が我が国の社会経済に与える影響に関する調査報告書」(株式会社リベルタス・コンサルティング):https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/097626be-6f2b-41d6-9cc0-71bf9f7d62d5/13cd9c2b/20230401_resources_research_other_shakai-keizai_02.pdf
5. 「日本におけるダイバーシティ・マネジメント研究の今後に関する一考察」(堀田彩):https://core.ac.uk/download/pdf/222953524.pdf
6. 「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/gaikokujin.html
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