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世界トップ学生面接ガイドライン2025 - 学生の「見せ方」に左右されない面接方法とその評価

企業の採用活動において、面接はかねてから重要な役割を担っています。特に、学生を採用する際には、面接を通して学生のスキルセットやパーソナリティを見極め、自社の社風に合う人材かどうかを判断することが求められます。

一方で、学生側も面接を突破するために、自己PRやエピソードを効果的に伝えるための対策を練っています。中には、就活塾に通い、面接対策に特化したトレーニングを受ける学生も少なくありません。しかし、そうした対策は、学生の真の能力を見抜くことを難しくする可能性も孕んでいます。

特に直近では生成AIの発達により、大量採用の必要性が今後薄れていく中、より優秀かつカルチャーフィットのある学生を採用していくことが求められる時代に突入しております。そうしたトレンド下において、ミスマッチのない採用を進めていくことが急務となっております。

本記事では、面接官の視点から学生の真の能力を見抜くための方法を、心理学、認知科学、教育学などの知見やその実例を交えながら考察します。また、設問例や評価例等も記載しつつ、より実践的な評価方法を提案します。



面接における誇張の可能性:心理学的側面からの考察


面接という評価の場において、学生は自身をより良く見せようとする心理が働き、意図せずとも情報に歪みが生じる可能性があります。Daniel Kahnemanの著書「ファスト&スロー」で提唱されているように、人間の思考には「システム1」(直感的な思考)と「システム2」(論理的な思考)の2つのシステムが存在するとされています*1。当理論に則れば、面接という緊張を伴う状況下では、システム1が優位に働き、過去の経験を美化したり、都合の良いように解釈したりする傾向が強まります。 


また社会心理学においては、このような行動は「印象操作」*2 と呼ばれ、相手に好印象を与えるために自己呈示を戦略的に行うものとされています。例えば、


  • 自己高揚: 過去の経験を語る際に、実際よりも困難な状況や大きな成果を強調する。   

  • 粉飾: 失敗談を語る際に、責任を外部要因に転嫁したり、マイナスの影響を最小限に抑えようとしたりする。

  • 迎合: 面接官や企業に対する賞賛を過剰に行う。

  • 虚偽の共感: 企業理念や事業内容への共感を、実際よりも強く表現する。


などが挙げられます。こうした誇張は、面接官の判断を歪め、適切な人材選考を阻害する可能性があります。



認知バイアス:面接官の「見方」が評価を歪める


面接官もまた、様々な認知バイアスに影響され、客観的な評価を妨げられる可能性があります。代表的な認知バイアスとして「ファスト&スロー」 *3に挙げられているものを以下に列挙します(抜粋)。


認知バイアス例:

  • ハロー効果: ある顕著な特徴(例えば、容姿端麗である、出身大学が有名であるなど)に基づいて、他の特徴も肯定的に評価してしまう。

  • 確証バイアス: 自分の仮説に合致する情報ばかりを集め、反証となる情報は無視してしまう。例えば、第一印象で「優秀そうだ」と感じた学生に対しては、その印象を裏付けるような情報ばかりに目が行き、そうでない情報は軽視してしまう。

  • アンカリング効果: 最初に提示された情報に引っ張られて、その後の判断が影響を受けてしまう。例えば、最初に高評価の学生を面接してしまうと、その後の学生を相対的に低く評価してしまう。


これらのバイアスは、面接官が無意識のうちに抱いてしまう可能性があり、客観的な評価を阻害する要因となります。



「アートの見方」と学生の評価の類似点:解釈の多様性


小崎哲哉氏の著書「現代アートとは何か」*4では、現代アートの解釈が多様化し、作者の意図を超えて、鑑賞者自身の経験や知識、価値観によって作品の意味が変化していくことを指摘しています。   


これは、学生の評価にも通じるものがあります。面接官のバックグラウンドや価値観によって、同じ学生の回答に対しても異なる解釈が生まれ、評価が変わってしまう可能性があるのです。

例えば、ある面接官は、学生の「失敗から学んだ」というエピソードを、成長意欲の表れと捉えるかもしれません。しかし、別の面接官は、リスク管理能力の不足と捉えるかもしれません。


勿論、アート鑑賞であれば、こうした見方の違いを楽しむといったことができるのですが、アートは作品対一個人での関係に留まるのに対し、面接においては候補学生対社員(複数)となるため、1人とのフィットだけでなく、会社全体とのフィットを考えていく必要があります。よって、学生の「見せ方」だけでなく、面接官の「見方」も評価に影響を与える可能性があることを認識した上で、より会社全体とのフィット性を評価できるような面接および評価のメソドロジーを社内で制定する必要があります。



学生の真の能力を見抜くための面接設問と、設問回答に対する評価方法:思考力と発想力を問う


学生の「見せ方」に左右されず、ピュアなスキルセットやパーソナリティを評価するためには、事前に準備が難しい、学生の思考力や発想力、そして倫理観を評価する設問が有効です。勿論、企業によって評価するポイントは変わってきますが、以下に多くの企業での評価ポイントを鑑みた面接設問例と、それに対する実際の回答例と当回答例に対する深堀設問例および当回答に対する評価ポイント例を記載いたします。


  • 問題解決能力を評価する設問例: 「あなたが無人島に漂着し、限られた資源で生き延びなければならないとします。どのような行動をとりますか?その理由も説明してください。」 「ある地域で人気の老舗和菓子店を経営しています。近年、売上は減少傾向にあり、顧客の年齢層も高齢化が進んでいます。この状況を打破し、和菓子店を再び活性化させるためには、どのような戦略を考えますか?」

    • 設問概要:

      • この設問は、認知心理学における問題解決の枠組みを活用しており、学生が問題を分析し、解決策を考案し、その実行可能性を評価する能力を測ることができます*5

      • 限られた情報の中で、どのように論理的に思考し、優先順位を付けて行動できるのか、そのプロセスを評価することが重要です。 

      • 面接官は、追加の質問を通して、学生の思考をさらに深掘りし、潜在的な能力を引き出すように努めるべきです。

    • 回答評価ポイント例

      • 限られた情報から、論理的に思考し、状況を打開できるか

      • 面接官と会話しながら必要な情報を引き出せる力(≒チームワークの素養)があるか

      • 目的を明確にした上で、そこから逆算して解決策を導き出せるか


  • 発想力・創造性を評価する設問:

    「もしもあなたが、時間を操る能力を手に入れたら、何に使いますか?その理由も説明してください。」 「もしもあなたが、新しい文房具を開発するとしたら、どんなものを作りますか? また、その文房具は、どのような人にとって、どのように役立つものですか?」


    • 設問概要

      • この設問は、ギルフォードの知能構造モデルにおける「拡散的思考」を評価するもので、学生が既存の枠にとらわれず、自由な発想で多様なアイデアを生み出す力を測ることができます*6

      • 奇抜なアイデアだけでなく、そのアイデアの背景にある論理や、実現可能性についても評価することで、学生の思考の深さを探ることができます。   


    • 回答評価ポイント例

      • 既存の枠組みにとらわれず、斬新でユニークなアイデアを提案できているか

      • どのような人にとって、自分のアイディアがどのように役立つのかを明確に、かつ論理的に説明できているか

      • 自分のアイデアを魅力的に伝え、聞き手の興味関心を惹きつけることができるか

           

  • 価値観・倫理観を評価する設問:

    「あなたは、ある企業の社長です。業績が悪化し、従業員の解雇を検討しなければなりません。どのような基準で解雇する従業員を選びますか?その理由も説明してください。」

    「あなたは、ある水道会社の社員です。会社の業績が悪化し、コスト削減のために、これまで無料で提供していた10L分の水を有料化するかどうかを検討することになりました。これによって、今まで無料枠で水を貰っていた、ある地域の20%の家庭は水にアクセスできなくなり、それらの家庭は場合によっては水が飲めなくなるかもしれません。あなたは、この問題について、どのような意見を持ちますか?」

    • 設問概要:

      • Kohlbergの道徳性発達段階理論を参考に、学生がどのような価値観や倫理観に基づいて判断を下すのかを評価することができます*7

      • 正解のない問題に対して、学生がどのように考え、葛藤し、最終的な結論に至るのか、そのプロセスを注意深く観察することで、その人の倫理観や判断力を見抜くことができます。   

    • 回答評価ポイント例

      • 顧客の立場に立って、サービスの価値や影響を考えられるか。

      • 企業倫理、社会貢献、顧客との信頼関係など、どのような価値観に基づいて判断を下すのか。

      • コスト削減の必要性と顧客満足度の維持という、相反する要素をどのように両立させるのか。

      • 具体的な解決策や代替案を提案できるか。


学生の真の能力を見抜く評価方法:多角的な視点と客観性


上記のような設問に対する回答の評価においては、各設問での回答に対する評価は勿論、全体評価を付けることも重要となってきます。以下に、その全体評価のポイントとして考慮すべき項目の例を記載します。


  • 思考の深さ: 学生が問題の本質を理解し、深く思考しているか。表面的な回答に終始していないか。   

  • 論理の整合性: 学生の主張や根拠が、矛盾なく論理的に説明されているか。   

  • 独創性: 学生が独自の視点や発想を持っているか。既存のアイデアにとらわれていないか。

  • 表現力: 学生が自分の考えを明確かつ効果的に表現できているか。

  • 倫理観: 学生の回答に、倫理的な問題点はないか。   

  • 多様性: 学生の回答が、多様な視点や価値観を反映しているか。

  • 行動特性: 学生の行動が、企業の求める人物像と合致しているか。

  • 状況対応能力: 想定外の質問や状況変化に対し、柔軟に対応できるか。コンサルティングファームでは、面接官が意図的に圧迫面接のような雰囲気を作り出し、 学生のストレス耐性や冷静な判断力を評価することがあります。 

  • 共感力: 相手の意見を尊重し、共感しながらコミュニケーションを取れるか。

  • 科学的思考: 問題に対して、論理的・客観的に分析し、解決策を導き出せるか。モデルナでは、バイオテクノロジー分野の企業として、 学生の科学的思考力や問題解決能力を重視しています。   


これらの評価ポイントを総合的に判断することで、学生の「見せ方」に惑わされることなく、真の能力を見抜くことができます。



ストーリーテリングの重要性と限界:The Role of Transportation in the Persuasiveness of Public Narrativesからの考察


ストーリーテリングは、面接において自身の経験や能力を効果的に伝えるための重要なスキルです。しかし、ストーリーテリングを意識しすぎると、相手に好印象を与えようと、事実を誇張したり、脚色したりしてしまう可能性があります。


Melanie C. GreenとTimothy C. Brockによれば、人は物語に没頭することで、現実世界から物語の世界へと意識が移行し、物語の内容をより深く理解し、共感しやすくなるということが分かっています*8。   これは、面接においても同様のことが言えます。面接官は、学生の語るストーリーに感情移入することで、客観的な判断力を失い、話の内容が事実と異なっていても、感情的に納得してしまうことがあります。特に志望動機やガクチカ、挫折した経験など、候補学生の過去の経験に関する設問を面接で問う場合、候補学生は事前に練ってきたストーリーを基に回答するため、特にストーリーテリングの良し悪しが面接官の評価に影響を与えてしまう可能性があります。


そのため、面接官は、学生の語るストーリーに感情的に流されることなく、客観的な視点で内容を評価することが重要です。具体的には、学生の語るエピソードの根拠や裏付けとなる情報を求めたり、他の面接官と意見交換を行ったりすることで、多角的な視点から評価を行うことが有効です。

また、事前に練られたストーリーによる評価への影響を防ぐべく、先述の面接設問例を取り入れ、事前準備の影響が出ないような面接となるようにするべきです。



面接官が持つべき意識と心構え:公平性と共感のバランス


学生のスキルセットやパーソナリティを評価する上で、面接官は以下の様な意識と心構えを持つべきです。


  • 先入観を持たない: 学生の出身大学や専攻、外見、そして就活塾の利用経験などによって先入観を持たず、公平な目で評価する。   

  • 傾聴する: 学生の話を最後まで丁寧に聞き、理解しようと努める。

  • 質問する: 学生の回答に対して疑問点があれば、積極的に質問し、理解を深める。

  • 多角的に評価する: 一つの側面だけで判断するのではなく、様々な角度から学生の能力やパーソナリティを評価する。   

  • 学生の立場に立つ: 学生の緊張を和らげ、安心して話せる雰囲気を作る。   

  • 共感と客観性のバランス: 学生の気持ちに寄り添いながらも、感情に流されず、客観的な視点で評価を行う。

  • 多様性への理解: 学生の文化的背景や価値観を尊重し、多様性を理解した上で評価を行う。

  • 企業理念の体現: 面接官自身が、企業理念や求める人物像を体現しているか。

  • 本質を見抜く力: 就活塾で訓練された「型」にはまった回答に惑わされることなく、学生の真の能力や個性を見抜くことに努める。


一方で、最終的には各面接官は候補学生と一緒に働くことになるため、勿論それぞれの面接官の候補学生に対する直感的なフィードバック("良い子だった"、"人当たりが良さそうだった",etc.)などを評価点にいれることも重要です。


これらの意識と心構えを持つことで、学生の真の能力を見抜き、自社にとって最適な人材を採用することができます。



まとめ


本記事では、面接官の視点から学生の真の能力を見抜くための方法を考察しました。

学生は面接で良い印象を与えようと、自身の経験を誇張して伝えてしまう可能性があります。面接官は、学生の語るストーリーに惑わされることなく、客観的な視点で評価することが重要です。効果的な面接設問や評価ポイントを用いることで、学生の誇張を見抜き、真の能力を評価することができます。また、面接官自身の意識改革も、学生の真の姿を見抜く上で重要な要素となります。

面接は、学生と企業の相互理解を深めるための場であるべきです。面接官は、学生の真の能力を見抜き、その能力が最大限に発揮できるような環境を提供することで、学生と企業の双方にとって Win-Winな関係を築くことができるでしょう。



出典・注釈


1・3. "Thinking, Fast and Slow"(Daniel Kahneman); 実際の脳の働きは、システム1とシステム2のように明確に二分されているわけではなく、あくまで理解を助けるための簡略モデルであるとされていることに留意


2. 「科学技術リテラシーに関する課題研究 報告書」(独立行政法人 科学技術振興機構):https://www.jst.go.jp/sis/archive/items/literacy_01.pdf


4. 「現代アートとは何か」(小崎哲哉)



6. "Intelligence: 1965 model."(Guilford, J. P.): https://psycnet.apa.org/record/1966-07694-001


7. 「Kohlbergの道徳性発達理論」(内藤 俊史):https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/25/1/25_60/_article/-char/ja/


8. "The Role of Transportation in the Persuasiveness of Public Narratives" (Melanie C. Green and Timothy C. Brock) : http://www.communicationcache.com/uploads/1/0/8/8/10887248/the_role_of_transportation_in_the_persuasiveness_of_public_narratives.pdf


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