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就業型インターンシップの必要性 - なぜ海外トップ学生を採用する上で就業型インターンシップは必要不可欠なのか

更新日:8月12日


近年、スタートアップを中心に多くの企業が取り入れている就業型インターンシップ*。実際に日本の大学生向けのジョブサイトを見ても、一昔前はフルタイムの応募が殆どであったフィードに、夏休みの8週間を丸々使うようなインターンシップや、半年以上の長期インターンシップなど、長期に渡るインターンシップの募集が散見されるようになってきました。国内学生側からすると、就業型のインターンシップ経験を積むことで、その企業の雰囲気や事業内容について理解を深めることができたり、或いはその経験を基に大企業での面接における"ガクチカ"ストーリーを獲得することができたりする等といったメリットがあります。企業側からしても、フルタイム採用候補学生を見極める場としての就業型インターンシップの活用等といった点でメリットがあります。そんな中で、特に海外トップ大学の学生をフルタイム採用する場合、この就業型インターンシップの実施というのがフルタイム採用の成功および採用後の活用という点にに対し大きく寄与します。当記事では、企業側が就業型インターンシップを行うメリットおよびデメリットを改めて整理した上で、なぜ海外トップ学生をフルタイム採用する上で就業型インターンシップは必要不可欠なのか、といった点について記載していきます。


*就業型インターンシップ:職場体験の色が強い短期(数日間)のインターンシップとは違い、学生が実際の業務に従事する形態を指します。なお、当記事においてはフルタイム成功と紐づくような、選考要素を含むものを就業型インターンシップと定義します。



就業型インターンシップを実施するメリット


1. フルタイム採用におけるミスマッチを無くす


新卒フルタイムで学生を採用した後に発生する企業-学生間のミスマッチは、決して珍しい事象ではありません。事実、新卒学生が入社してから半年を過ぎると、企業側の担当者レベルからは以下のような声が挙がるケースが多いです。


英語がビジネスレベル以上と書いてあり、面接でも志望動機を英語で話せていたので採用したが、実際に英語を使う部署に配属後、英語が全く使えないことが判明し困った
明るい性格を持った学生だと思い採用したが、いざ入社してみると全く違い、根暗だった

現在、世界中の企業では一般的な選考方法として面接が導入されています。特に、予め質問すべき内容あるいは回答の評価方法を定める構造的面接は、入社後の従業員パフォーマンスを測る上で一定程度有用というような研究もあり*1、多くのトップ企業が当方法を導入しております。しかし、構造的面接は質問内容やその意図に関する情報が外資就活ドットコムやワンキャリアなどの就活サイトおよびXやRedditなどのSNSでデータベースとして蓄積、および候補者間で共有されてしまいます。結果として多くの候補者が予想設問に対する回答を予め準備してしまうため、正確な候補者情報を引き出すことが難しくなっております。一方で、質問内容や評価を面接官の裁量に任せる非構造的面接については、パフォーマンスとの相関具合が低いとされており*2、入社後のミスマッチが大きくなってしまいます。そんな中、Ann Marie RyanとNancy T. Tippinsによれば、入社後のパフォーマンスの高さと最も相関関係にあった方法は、ワーク・サンプル(候補者に入社後の業務と同じようなタスクを行ってもらい、マッチング度合いを測る方法=就業型インターンシップ)でした*3。このことからも分かる通り、就業型インターンシップを実施することで入社後のパフォーマンスの予測が立ちやすくなります。また学生側からしても、日々の業務内容や従業員の雰囲気、オフィスの雰囲気等について知ることができるため、本当に自分が働きたい会社なのかを見極めることが可能です。結果として、双方向での理解が深まるため、フルタイム採用後のミスマッチがなくなりやすくなります。

※一方で、面接で高く評価されたと考える応募者は組織への態度が良好になるという研究結果も出ているため*4、入社後のミスマッチを防ぐ&内定辞退率を下げるという観点においては、構造的面接→就業型インターンシップ→構造的面接を実施するのが良い方策になります。



2. 優秀な学生の早期囲い込み


経団連が2018年に就活解禁日ルールを廃止して以降、学生の就職活動シーズンが前倒し&長期化するようになっています。以前は大学4年生6月1日の選考開始解禁日に併せて企業が動いていた*5のが、今では大学3年生の段階から母集団形成に動く企業が増え、場合によってはそれより前から接点を持とうとする企業も増えています。そういった状況の中で、この就業型インターンシップを低学年の大学生に対して提供することにより、母集団が大きい状態での選考が可能となるため、優秀な学生と接点を持てる可能性が高くなる他、就業型インターンシップを通じてそういった学生と深い接点を持つことができ、場合によっては採用企業に対する一定のロイヤリティを生むことも可能であるため、優秀な学生を採用しやすくなります。特に就業型インターンシップを通じて、説明会や面接、オフィス見学などでは見せられない、より深い魅力を伝えることができるため、そうした優秀な学生の志望度合いを更に高めることも可能です。

また、万が一フルタイムの新卒採用で他社に就職してしまったとしても、就業型インターンシップを通じて生まれたロイヤリティに起因して、数年後に戻ってくるケースも良く見られます。よって、そうした中途採用母集団の形成といった観点からも就業型インターンシップは非常に有用であると言えます。



3. 若手のマネジメントスキル向上


企業において、特に1-2年目の若手はジュニアワークに追われ、マネジメントスキルを養える機会が少ないケースがほとんどです。結果としてマネジメント目線の欠如に起因したタスク遂行能力の低さや、管理職に昇進した際のマネジメントワークレベルが不十分になる場合が多いでしょう。よって、若手の頃からマネジメント経験を積ませることが育成の観点では非常に重要であり、その育成に頭を抱える経営者の方も多いのではないかと考えております。その際、就業型インターンシップとして入ってきた学生のマネジメント経験を若手に積ませることで、そうしたマネジメント層の視点の獲得や、マネジメントワークを会得させることができます。これは結果として中長期的な従業員の平均パフォーマンスの底上げに繋がります。

なお外国籍の就業型インターンシップ生を受け入れると、わざわざ海外に派遣せずとも多国籍のマネジメント経験を若手に積ませることが可能となるため、従来のように多国籍のマネジメント経験を従業員に積ませるために海外派遣するといったことの必要性がなくなります。よって、結果としてそうした経費の削減にもつながるため、海外派遣制度等を導入している企業にとっては、就業型インターンシップに係る多少のオンボーディングコストや受入コストもペイするような形となるでしょう。



4. フルタイム入社後のオンボーディングコストの低さ


就業型インターンシップを通じて、各ポジションで必要なハードスキルを習得するだけでなく、社内のナレッジに関する理解や社員との関係性が構築できるため、結果として当学生がフルタイムとして入社した後、即戦力としてパフォーマンスを発揮してくれるケースが多いです。本来、フルタイムから入社した学生に対しては、フルタイムとしての給与+オンボーディングのコストがかかりますが、就業型インターンシップの場合はフルタイム分の給与ではなく、あくまで就業型インターンシップでの給与(勿論フルタイムと同等の給与を提供する場合はこれに該当しない)で当ベネフィットを得られるので、結果として就業型インターンシップの費用対効果は良くなります。



就業型インターンシップを実施するデメリット


1. 受け入れに係る労力の大きさ


就業型インターンシップ生はあくまで学生であり、夏休み期間のインターンシップを除けば基本的には学業との両立がメインとなってきます。そういったことも相まって、フルタイムに求めるようなコミットメントを得ることが難しく、教育や進捗管理等に係る労力がどうしてもかかってしまいます。そしてもしその学生のパフォーマンスが著しく悪ければ、その分カバーリングに係る労力が発生し、連鎖してチーム全体のパフォーマンスにも影響を与え、結果として企業全体のビジネス運営にも影響が出る可能性があります。また誰をメンターに充てるか、どういった評価基準を適用するか等といった、正社員ではない就業型インターンシップ生に対する受入体制の整備も必要となってきます。

因みに、外国籍の学生を就業型インターンシップ生として受け入れるには、これらに加えて在留資格付与に向けた手続き等も必要になります。 (Jelper Clubでは在留資格に関する御相談にも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください)


2. 金銭的なコスト


インターンシップ中の給与は勿論、仕事に必要な機材や道具、オフィススペース等も必要になってきます。そういった観点から、当然のことながら追加の金銭的コストが発生します。



なぜ海外トップ学生を採用する上で就業型インターンシップ制度の導入が必要不可欠なのか


それでは上記就業型インターンシップのメリット・デメリットを踏まえ、本記事のメイントピックである、海外トップ生採用における就業型インターンシップの重要性について当項で記載していきます。海外トップ生の採用において就業型インターンシップは様々なポジティブ効果を与えますが、主な理由といたしましては、以下の項目が挙げられます。


1. 海外の企業では就業型インターンシップ→フルタイム採用が一般的

2. ミスマッチの防止

3. 異国の地「日本」での環境への順応

4. 日本という優れた住環境・文化と絡めた企業への愛着心・ロイヤリティの醸成


上記4つの項目について、以下で詳しく掘っていきます。



1. 海外の企業では就業型インターンシップ→フルタイム採用が一般的


海外、特に欧米では就業型インターンシップを経てフルタイム採用オファーを貰うのが一般的です。特に一般的なのは欧米の大学が夏休み期間(6~8月)に就業型のサマーインターンシップを実施し、当インターンシップでパフォーマンスが良かった学生に対しそのままフルタイムオファーを提供するというものです。近年、欧米の一部のファンドやコンサル、投資銀行などでは、就活早期化に対するカウンターメジャーとしてフルタイム選考が実施されていますが、それでもサマーインターンシップを経た採用というのが一般的となっています。

欧米と地理的にも離れている日本の企業においては、まずはこの一般的な採用サイクルに則って夏の就業型インターンシップを海外トップ学生に提供し、その上でフルタイム採用の可否を見極めるのが無難でしょう。



2. ミスマッチの防止


特に海外は日本とは異なった文化や価値観を持つ学生が多いため、企業とのフィットを慎重に判断する必要があります。ダイバーシティ・マネジメントの観点から言えば、異なった価値観を持った人材をうまく受け入れ、その違い(≒深層的ダイバーシティ)を活用することでチームのパフォーマンスは上がるという示唆もあるため*6、本来であればこういった”違い”はポジティブに捉える必要があります。しかしながら当活用には一定程度の時間を要する*7とされており、当活用を実現するには一定程度ミスマッチを防止し、リテンションレートを高める必要があります。

そうしたミスマッチを防止するには企業・学生双方向の求める要件がマッチしているかを確認することが必要であり、そのためには就業型インターンシップという一種の"フィルター"を通すことが必要となるでしょう。



3. 異国の地「日本」での環境への順応


エリン・メイヤー氏が執筆した「The Culture Map」で言及されている通り、日本は他国と比べて極めてユニークなカルチャー・ポジションに位置します*8。日本に移り住み、かつ働くというのは、外国人にとってハードルが高いことと言えるでしょう。そうした観点からも、まずは就業型インターンシップというワンクッションを入れて日本での生活や労働環境に慣れてもらうことが、フルタイム採用後のパフォーマンス向上といった観点で非常に重要になってきます。また、会社として既に外国人の従業員を抱えている場合は、そうした従業員を就業型インターンシップ中のメンターとしてアサインすることで、より環境への順応を促すことも可能です。



4. 日本という優れた住環境・文化と絡めた企業への愛着心・ロイヤリティの醸成


以前弊社が執筆した記事「世界トップ学生の就職活動2024 - 日本企業が世界の新卒採用競争を制するためのガイドライン」において言及した通り、日本の住環境や生活の質の高さ、文化に対し憧憬を持った海外トップ学生が、単純な給与の絶対値に拘らずに日本というキャリアパスを選択するケースが散見されます。そうした背景を汲み取り、日本での就業型インターンシップに加え、こうした住環境や生活のクオリティの高さや日本文化を感じられるようなプログラム等を並行して提供することにより、彼らの日本に対する憧憬を企業における労働経験というレンズを通じて高めることができるため、企業に対する感情がポジティブになるでしょう。また、そうしたプログラムによって同期のインターンシップ生や会社の従業員との仲を深め、結果としてロイヤリティ向上にもつながります。

また前項でも言及しましたが、会社として既に外国人の従業員を抱えている場合は、そうした従業員を就業型インターンシップ中のメンターとしてアサインすることで、そうしたインターンシップ生のロイヤリティを更に醸成することが可能となります。



まとめ


就業型インターンシップの実施には一定程度の労力やコストが発生するものの、特に海外のトップ学生を採用するという観点においては非常に有効であるといえます。企業・学生の双方が採用後に不幸な結果にならないためにも、就業型インターンシップを実施し、お互いがお互いについて良く理解し合うことが重要です。また、まだ就業型インターンシップを導入していない企業が海外トップ学生を採用する場合には、海外の採用サイクルに合わせる形で夏の就業型インターンシップを実施するのが良いでしょう。Jelper Clubでは、そうした企業における就業型インターンシップの設計や、それに伴う採用ブランディングの支援も行っております。優秀な外国人を採用したい、国内学生向けに就業型インターンシップを実施したいがどのように設計したらよいのか分からない、などのお悩みを持つご担当者様は是非お気軽にお問い合わせください。


(執筆・編集:Jelper Club 編集チーム)



出典・注記


1・4. 「新規大卒採用活動における構造化面接のもとでの面接者の評価と応募者の自己評価」(林 祐司)


2・3. "Attracting and selecting: What psychological research tells us" (Ann Marie Ryan and Nancy T. Tippins)


5. 「新卒一括採用、転機に 経団連が就活ルール廃止発表」(日本経済新聞):https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36281670Z01C18A0MM8000/


6・7. 「日本におけるダイバーシティ・マネジメント研究の今後に関する一考察」(堀田彩):https://core.ac.uk/download/pdf/222953524.pdf


8. "The Culture Map" (Erin Meyer)

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