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【CEOコラム】新卒採用のミスマッチを完全に防ぐことは不可能である - 「やらないことを決める」を意識し、より精度の高い新卒採用の仕組みを作れ


サマリー


  1. 新卒採用のミスマッチを解消すると謳うHR会社が増えているにも関わらず、新卒就職後3年以内の離職率は下がるどころか、近年再び高まっている


  2. 特に離職率のドライバーの1つである、「本人の意向と会社が提供するキャリアジャーニーの一致(本人が志望する仕事内容/条件とポジションのジョブデスクリプションとの一致・本人のキャリア志向性と会社が提供するキャリアパスとの一致・会社が成し遂げたいミッション/ビジョンに対する、本人の心からの共感)」の評価は困難を極める。


  3. 採用時に評価が困難な観点はあえて採用担当の評価項目から外し、まずは評価が可能な項目の評価精度を高めるべき。

  4. 採用のKPIを応募数や内定数ではなく、採用後のパフォーマンス(=採用パフォーマンス達成率)に重きを置くことが、優秀な人材を採用する上で重要である。またこれは、採用時のミスマッチを減らし、離職率を下げることにも繋がる。




新卒採用における「ミスマッチ」は新卒採用を行う日本企業にとって、永遠の課題である。多くの企業が採用時のミスマッチに悩み、その悩みを解決すると謳うHR会社は星の数だけ誕生している。しかしながら、当問題が解決されている兆しは見えない。以下に日本全体の大卒における新卒就職後3年以内の離職率の推移を、卒業年度を横軸、離職率を縦軸として記載する。


図1:日本全体の大卒における新卒就職後3年以内の離職率*1

離職率

上記グラフを見て分かる通り、ミスマッチの1つの指標となる離職率は減少しているどころかむしろ近年再び上昇傾向にあることが分かる。勿論、新型コロナウイルスによる在宅勤務の増加などでグリップが保てなくなっている等はあるものの、これだけミスマッチをなくすためのサービスが増えている中で、この傾向は皮肉といえる。

そこで当件に関する筆者の主張を以下に記載する。


「ミスマッチを完全に防ぐことは不可能である。ミスマッチの原因を分解し、対処可能な要素のみつぶしていくべきである。これによって、結果的に採用の主目的である入社後のパフォーマンス/定着率は改善されるだろう。」


当記事では、この筆者の主張をサポートするロジックおよびエビデンスを記載し、当主張のサポートおよび日本企業への提言を示していく。


※離職には職場の人間関係、個人の事情など様々な要因があるが、本稿では主に採用時の“ミスマッチ”に起因する部分に着目する。



新卒採用におけるミスマッチとは何か?


新卒採用の選考において評価される要素は大まかにわけて以下の2点である。


  1. ハード面(スキルなど)

  2. ソフト面(人柄、やりたいこととの一致など)


1、2それぞれ分けて、どういった点でミスマッチが起きる傾向にあるのかを示していく。

なお大前提として、企業の選考は書類選考→筆記試験→面接選考の3つのステップで行われるものとする。なお日本国内の大部分が実施している選考を実施する場合を想定しており、そうした選考が実施されて発生したミスマッチと、そうしたミスマッチを防ぐ施策について言及していく。



ハード面


ハード面の要素は数え上げたらきりがないが、大まかにわけると以下のカテゴリーに分けられる。


a. 仕事における体力面

b. メンタル面

c. ハードスキル面(プログラミングスキルなど)


aの仕事における体力とは、通常1日8時間以上の業務時間×稼働日数(通常平日5日間)内において、集中して業務に取り組める力を指す。これは筋肉量等に紐づくフィジカル的な体力と、脳やその他ホルモンなどに紐づく思考体力に分解される。

bのメンタル面とは、逆境に耐えながら仕事をこなしていくだけのメンタリティを指す。特に通常、業務を遂行していく中で、チームや社内での衝突、外部(顧客など)との衝突は当たり前であり、そうしたハードシップがあっても目標に向けて動けるメンタリティを持っているか否かということである。

cのハードスキル面は、専門的なスキルを指し、いわゆるプログラミングスキルや会計スキル、語学スキルなどを指す。


cについては、資格保有有無や準備が難しいような変則的なテストを解かせることで見極めが可能であり、この点でミスマッチが起きるケースは稀である。またaについても、過去の実績を見ることで、ある程度の素養を測ることができる。前者のフィジカル的な体力で言えば、体力が必要なスポーツを高いレベルおよび組織でプレーしていた、などで測ることが可能であり、後者の思考体力については、学歴や思考体力が求められる資格試験等に合格している、などで見極めることが可能である。


問題はbのメンタル面である。メンタル面を決定する要素は変数が極めて多く、書類選考や筆記試験選考は勿論、面接でも測ることが極めて難しい。現状多くの企業は面接でメンタル面を測ろうとしている。例えば過去の挫折/失敗経験のヒアリングや、圧迫面接の実施などが挙げられる。

しかしながら、当然学生側はこうした施策を想定して対策を練ってくるため、根幹の素養を測れないのが現状である。

なおこの点において、人事側が性善説に則り、事前に聞く質問を学生側に教えているシーンも散見される。人事側としては深堀や想定外の質問を行うことで素養を測れるという判断をしているとのことであるが、例えば学生側がそうした深堀質問を想定しながら話を盛っている場合(よく見られる光景である)、或いは想定外の質問に対して虚偽の回答をした場合、それが真か否かを面接官側で判断するのは困難である(こうした事象に対して、面接官側から「嘘だとしても入念に準備するパーソナリティや、想定外の質問に対して咄嗟に対応できる対応力があるのだからそれはそれで評価できる」などといった説明が入ることがあるが、これでは本来の目的とは別の目的で評価していることとなり、本末転倒である)。


よってハード面においては、特にメンタル面の素養において、通常の選考だとミスマッチが起きやすい。



ソフト面


ソフト面の要素をカテゴライズすると、以下の2つになる。


a. 本人の性格と会社/チームのフィット

b. 本人の意向と会社が提供するキャリアジャーニーの一致


aの本人の性格と会社/チームのフィットについては、会社自体のカルチャーや、各ポジションで一緒に働くチームとの性格的な相性を指す。

bについては、以下の3つに分けられる:


b-1. 本人が志望する仕事内容/条件とポジションのジョブデスクリプションとの一致

b-2. 本人のキャリア志向性と会社が提供するキャリアパスとの一致

b-3. 会社が成し遂げたいミッション/ビジョンに対する、本人の心からの共感


ソフト面のマッチングにおいては、実際a、b共にかなり見極めが難しい。

まずaについては、実際の面接における印象や挙動と、現場での振舞いで異なることが常であることから、通常の書類・面接選考においてマッチングを測ることが困難である。また現場の面接官が良いと判断しても、入社してからそうした面接官と一緒に働かない限り、当判断は無意味なものとなってしまう。

またbについては、実は一番ミスマッチが起きやすい部分である。

そもそもジョブ・デスクリプションおよび説明会や社員との交流(OB訪問)を経た上で学生が応募してくるため、少なくともb-1とb-2については学生が理解しているという前提で選考が進んでいくケースが多く、一応確認のために「どういったキャリアパスを考えているか」「君が将来成し遂げたいことは何か」「10年後、どういった人になっていたいか」などの質問を投げかけ、その回答と自社が提供するキャリアジャーニーとの一致度を測るケースが多い。しかしこれには2つの落とし穴が隠されている。


1点目は、多くの学生が圧倒的にb-1の要素を重視して入社先を選んでいることに起因し、b-2およびb-3で一致していない、あるいは理解しないまま選考に来ているケースである。そうした学生は概ね、「ハード面」における「b. メンタル面」同様、b-2およびb-3を測るために聞かれる質問に対する想定回答を予め用意してくる傾向にある。そうした学生を見定めることはやはり難しい。

(ちなみにZ世代は環境への貢献意識よりも、自分の利益を優先しようとする意識の方が高いというEYの調査結果もあり、こうした背景がb-1の要素が重視されやすい現象を説明できる*2


そして2点目は、採用担当がb-1の内容を誇張しているケースである。具体的には、採用担当のKPIが応募数や内定数になっている場合、採用担当が学生のニーズにジョブデスクリプションを合わせる形で誇張する場面が散見される。そうしたジョブデスクリプションで多くの優秀な学生からの応募を集める&内定を出すことで、採用担当の評価が高まる一方、内部ではミスマッチが起き、入社した多くの学生が離職していく。特に現場の採用担当の任期が短い場合(3年程度)にこうした現象が多発する(入社後のパフォーマンスをKPIに含むのが困難となり、含まれないケースが多いため)。




防げるミスマッチと防げないミスマッチ


先述の内容を踏まえ、新卒採用における評価要素ごとに、通常の選考におけるミスマッチの生じやすさでスコアリングしたテーブルが以下のものである。

カテゴリー

評価項目

評価点 (生じにくい 3 ⇔ 1 生じやすい)

ハード

仕事における体力面

2.5

ハード

メンタル面

1.5

ハード

ハードスキル面(プログラミングスキルなど)


3

ソフト

本人の性格と会社/チームのフィット

1

ソフト

本人の意向と会社が提供するキャリアジャーニーの一致

1


特にメンタル面、本人の性格と会社/チームのフィット、本人の意向と会社が提供するキャリアジャーニーの一致については、見極めがかなり難しい。次章ではそうした通常の選考ではミスマッチが生じやすい要素への対処方法について述べる。



通常の選考ではミスマッチが生じやすい要素への対処方法


まずは「メンタル面」についてであるが、これについては意図的なハードシップが組み込まれた短期インターンシップ(ワークショップ)あるいは中~長期(最低5週間以上)インターンシップを実施することを推奨する。

前者は、実務に近い疑似プロジェクトに、他の候補者とグループを組んで従事し、数日間にわたりプロジェクトを遂行していくようなものを指す。その中で、例えば顧客の要望により今まで計画してきたものがやり直しになる、などのハードシップに直面する状況を意図的に作りだし、そうした状況下で候補者がどのように立ち振る舞うかを見ることで、当要素を測定することが可能である。こうしたいわゆる短期ワークショップ/インターンシップは、現場への負担が少ないため既に多くの企業で採用されているが、選考直結型としている企業が少ないため、選考と直結させることを推奨する。また、複数年実施していると、どういう振舞いをした学生が通るのかといった情報が学生間で共有されてしまうため、パーフェクトな方法とはいえない。

そこで後者の中~長期インターンシップの実施が効いてくる。これは実際に候補者が部署に配属し、実務を中~長期に渡り経験させる方法である。1週間のインターンシップでは対策されてしまう場合が多いが、長時間協働すると対策が難しくなるため、メンタル面に関して非常に精緻な評価が可能となる。

また中~長期のインターンシップは、「本人の性格と会社/チームのフィット」を測る上でも非常に有用となる。


一方、どうしようもならないのは「本人の意向と会社が提供するキャリアジャーニーの一致」の部分である。特に「b-2. 本人のキャリア志向性と会社が提供するキャリアパスとの一致」および「b-3. 会社が成し遂げたいミッション/ビジョンに対する、本人の心からの共感」は、学生側が志望する企業が抱く、新卒採用における理想の人物像に合わせて自分の志望するキャリアパスや価値観を決めてしまうケースが非常に多く、そうした対策を学生側に取られた場合、企業側は例え深堀しても見抜くのが困難になってしまう。

また選考段階ではたまたま価値観がマッチしていたとしても、入社後に価値観が変わることは十分あり得る。人生を1つの軸で生き続けることは極めて稀であるためである。様々な経験を経て方向性が変わることが常であり、いくら大学時の価値観を基に選考を行ったとしても、入社後しばらくして趣向が変わり、離職してしまうケースも多い。更に、近年の高度な情報社会においては、特にSNSなどを通じてリアルタイムで他社・他業界の情報が手に入るため、そうした情報に踊らされて離職するケースも散見される。


そうした旨を踏まえ、ベースの選考を以下のように進めることを推奨したい。


1. CV等を通じたファクトベースの書類選考:

ハードスキル面、仕事における体力面を見極める。


2. ハードスキル面のレベル感を見極めるためのテスト(可能であれば実地テスト。もし難しければオンラインテストでもよいが、生成AIの利用を前提としたテストにする必要):

特に重視しているハードスキル面があり、かつそれがテストで測れる場合(R&D系の場合は難しい)、そうしたハードスキル面を見極める。


3. 面接(もし1、2で候補者が絞り切れない場合):

可能な限り勤務予定の部門サイドとの面接を行うこと。メンバーシップ型雇用の場合は、面接経験が豊富で客観的な評価を行うことができる人事を面接官に据えること。なお面接対象の候補者は、可能な限り少数に絞り、より1回1回の面接にリソースを割けるようにすること。

面接では、本人の性格と会社/チームのフィットをある程度見極める。またテストで見極められないようなハードスキル面(IT以外のR&D系など)も見極める。


4. 中・長期インターンシップ:

仕事における体力面、メンタル面、ハードスキル面、本人の性格と会社/チームのフィットを見極める。



そして当選考フローにおいて重要なことは、本人の意向と会社が提供するキャリアジャーニーの一致という観点を、あえて企業側の評価要素から抜くことである。こうした要素が評価項目に含まれることで、本来ハードスキルが十分にあって、性格的にも会社にフィットし、入社後十二分にパフォームできる学生が選考ではじかれてしまうケースが特に日本では散見される。

当要素はむしろ実態を正直に、かつ積極的に広報することで、判断のボールを学生側に持たせることが重要である。それにより無駄な募集が減り、曖昧な点を評価することもなくなるため、工数の削減およびより精緻な候補者評価を行うことが可能である。

なおこの際、現場のKPIを「応募数」や「内定数」ではなく、「入社後のパフォーマンス」に重きを置いたものにすることが成功のカギとなる。しかしながら、勿論どの企業も採用計画において必要な人員数を設定する必要がある。その際は、入社後のパフォーマンス達成率(採用した学生のパフォーマンスの合計スコア÷(従来の人員計画数×満点スコア))の値をKPIとして設定することで、入社後のパフォーマンスと採用数にバランスが置かれた採用を推進することが可能となる。また、これに加えて離職率もKPIとして設定することで、現場の採用担当者による誇張を防ぐことが可能となり、結果として採用時のミスマッチを従来よりも減らすことが可能となる※。

因みにこのKPIを設定するには、採用担当の任期を少なくとも5年単位にする必要がある。多くの日本の大企業では採用担当の任期を2-3年としているが、この任期では採用の主目的である採用後のパフォーマンス等が反映されづらく、かつPDCAを回していくインセンティブが働きにくい。そこで任期は最低でも5年とし、もしそれが難しければデータ継承制度や採用・定着 CoE(Center of Excellence)を設置し、担当者異動後も指標追跡できるような仕組みを整えることが必要である。


※入社してからパフォーマンス/離職率を測定するまでタイムラグが発生するため、当タイムラグをカバーするようなKPI(オンボーディング3か月後エンゲージメントスコア、6か月在籍率,etc.)も、低比重で設定する必要があることに留意



まとめ


日本は従来のメンバーシップ雇用に加え、日本人特有の「まじめさ」により選考フローや評価要素を複雑にしているケースが非常に多い。それによって人事の負担も高くなり、結果的に優秀な人材を採用するという一番の目的が忘れ去られ、手段の目的化が生じている。勿論、採用時にミスマッチを防ぎ、離職率を下げることは重要である。しかしながら、離職率のドライバーとなっている、本人の意向と会社が提供するキャリアジャーニーの一致という要素を会社側が測定するには不可能に近く、これに対する施策の費用対効果はかなり低い。よって、こうした要素を「あえて」候補者の評価項目にはいれず、むしろ本来評価が可能な点における評価の精度を高める方向性へと舵を切るべきである。また、前者の要素においては、KPIの変更とセットで、実態に関する広報を積極的に行い、入社判断のボールを学生側に持たせることが重要である。

事業戦略同様、「やらないことを決める」ことで、日本企業の採用競争力は格段に上がっていくだろう。


(執筆・編集:Jelper Club CEO 光澤大智)



出典


1. 「学歴別就職後3年以内離職率の推移」(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001318986.pdf


2. 「“環境にやさしい”で消費者はお金を払うか?」(EY):https://www.ey.com/ja_jp/insights/consulting/will-consumers-pay-for-environmentally-friendly

 
 
 

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