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ジョブ型雇用 vs メンバーシップ型雇用 ~なぜ日本における近年のメンバーシップ型雇用は優れているのか~

更新日:6月22日


近年、人事界隈の代表的なバズワードとして挙がる「ジョブ型雇用」というワード。 従来より日本企業

による正社員雇用形態の主流であったメンバーシップ型雇用が、近年の日本市場のグローバル化やデジタル化の流れに沿わないとされ、代わりに欧米諸国で主流のジョブ型雇用への転換が叫ばれるようになりました。巷では、ジョブ型雇用およびメンバーシップ型雇用がシステムを分類するための学術的概念を超えて、トレンドや価値判断をする上での定義のような扱われ方をしております*1。そして、頭ごなしにメンバーシップ型雇用が否定され、ジョブ型雇用が持ち上げられる傾向にあります。

しかしながら、日本のメンバーシップ型雇用は、特に自らのキャリアに迷う学生、すなわち”キャリアのモラトリアム”に差し掛かっている学生にとっては非常に優れた雇用形態である、というのが当記事における筆者の主張であります。当記事では、そういったメンバーシップ型雇用およびジョブ型雇用の定義や違いについて言及した上で、なぜメンバーシップ型雇用が日本で主流なのか、そしてなぜメンバーシップ型雇用こそ近年の学生が抱えるキャリアの悩みを解決するような制度なのか、について解説していきます。


メンバーシップ雇用とは?


メンバーシップ雇用とは、終身雇用(正規雇用従業員を定年まで雇用)を前提に、企業のメンバーとして一括で、職務を限定せずに採用され、雇用の安定と引き換えに、新卒から40年間、会社にフルコミットすることを求められる雇用形態のこと*2です。メンバーシップ型雇用で採用された社員には、職能給あるいは年功給が付与される。前者は「労働者の職務を遂行する能力を基準にして賃金が定められ、後者は「労働者の年齢」や「労働者の勤続年数」を基準にして定められます*3。日本においては、第二次世界大戦中~戦後にかけて急速に浸透した後高度経済成長期に代表的な雇用スタイルとして確立されました。そして、高度経済成長期からバブル経済期にかけての日本経済全盛の要因こそ、メンバーシップ型雇用にあるとされ、当時は高い評価を受けていました*4

メンバーシップ型雇用の大きな特徴は、会社が従業員を長期的に育成することを目的として、さまざまな職種を経験させる異動を行うことです(ジョブローテーション)*5。これにより、新卒で入社した学生は、一つの企業で様々な職種を経験することが可能となります。この概念が日本では社会通念化しており、メンバーシップ型雇用契約を正社員労働者と結んだ企業は、例えその正社員労働者の能力が低くとも、様々な職種を経験させ長期的な育成を行う責任があるとされています。そのため、労働契約法第16条で定められている解雇権濫用法理に則り、メンバーシップ型雇用の契約を結んだ場合の解雇は極めて難しいとされています。

よって、メンバーシップ型雇用契約で入社した正社員は原則解雇の心配がないため、多様な職種の経験を通じて、落ち着いて自らの強みを見つけることができる他、明確なジョブデスクリプションがない分、企業リソースを用いて新しいことにも挑戦することができ、近年では多くの日本企業で「社内起業」と呼ばれる、社内で新しい事業を立ち上げる活動が活発に行われています。



ジョブ型雇用とは?


ジョブ型雇用とは、やるべき仕事(ジョブ・デスクリプション)を遂行する能力を労働者が提供し、それに見合った対価を会社側が提供するという雇用形態です。企業は優秀な人材を確保するために賃金を上げるなど、常に人材獲得競争状態となる他、労働者もリスキリングやスキルアップにより、労働市場における自分の職務価値を高めるようになります。すなわちジョブ型雇用は、人の出入りやスキルの入れ替えが行われやすいため、デジタル化やグローバル化といった時代の変化に強いことが大きな特徴です*6



現在の日本の雇用形態の主流は?


2023年5月16日に内閣府より公表された「三位一体の労働市場改革の指針」*7では、(1)リ・スキリングによる能力向上支援、(2)個々の企業の実態に応じた職務給の導入、(3)成長分野への労働移動の円滑化の3点が記載されており、日本政府としてもジョブ型への転換方針を採っていることは明白です。

しかしながら、2024年卒の新卒採用においても、ジョブ型採用を導入している(および導入予定)なのは、27.4%に過ぎないとされており*8、未だにメンバーシップ型雇用が主流となっています。一方で、近年はメンバーシップ雇用の前提とも言うべき、年功序列制度に対して疑問符を付ける企業が続出しており、年功給を撤廃し職務や役割に応じた成果によって賃金を増減させる企業や、勤続年数問わず昇進させていく制度を導入している企業も増えてきています*9。すなわち、ジョブローテーションで色々な職種を経験しながら優れたパフォーマンスを出していけば、年齢関係なく昇給&昇進することができる、かつ解雇の心配も原則必要ないという、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の良いところ取りのような企業が増えています。そして、2019年の経団連中西会長の発言にあるように*10、今後しばらくは当傾向が続く可能性が高いとされています。



日本の雇用の根底と未来


世界を代表する経営学者、故P.F. ドラッカーは、著書「明日を支配するもの」において、日本について以下のような言及をしております。


アメリカでは、安全保障に次いで重要なものは経済である。日本で最も重要なものは社会である。
日本の政治家、官僚、経済界にとっては、経済も大切だが、社会の方がさらに大切である。

この言及こそ、日本独特の雇用形態の大きな根底にあると筆者は見ています。すなわち日本においては、政府のみならず企業も社会安定の形成に寄与する必要があり、入社した従業員が幸福な人生を送ることができるよう、責任を持って新卒から定年まで面倒を見るという、いわば"from the cradle to the grave(ゆりかごから墓場まで)"の一端を担っているのです。これが、先述したような独特の雇用システムを形成していると考えられます。事実、この雇用システムを含む社会安定優先ポリシーこそ、人口が未だに1億人を超えている日本に社会の安定と生活の質の高さももたらしています。以下に、G7諸国間における、平和度インデックス(Institute for Economics & Peace)と、生活の質インデックス(NUMBEO)のデータを貼付いたします。



図1:G7諸国における平和度インデックス(2023)*11



図2:G7諸国における生活の質インデックス(2024)*12


上記の2つの図を見て分かる通り、日本は平和度、生活の質ともにG7諸国の中でトップです。すなわち、日本で働くというのは、働くことで得られる経験や報酬もさながら、そういった社会的ベネフィットも享受することができるのです。この官民一体で作り出す社会的ベネフィットこそ、日本独特のメンバーシップ型雇用システムが続いている理由であると考えます。


今後は、テクノロジーの発展や、少子高齢化に伴う国内新卒プールの減少、転職へのニーズの高まりに起因した新卒入社従業員の離職率の高まりなど、メンバーシップ型雇用を支えてきた新卒一括採用制度や、終身雇用制度に対するアンチテーゼのようなトレンドが更に高まっていくことが予想されます。しかしながら、メンバーシップ型雇用を前提とした様々な社内制度などの変更には際限ない時間やコストがかかるため、メンバーシップ型雇用の完全撤廃は考えにくいです。むしろ先述した通り、ジョブ型雇用の良い要素を入れながら、一種のアウンヘーベンとして、メンバーシップ型雇用ベースの新たな雇用形態へと変化していくでしょう。例えば、管理職以前はメンバーシップ型、管理職以後はジョブ型、などの階層で切替えるような雇用形態や、技術職はジョブ型、非技術職はメンバーシップ型、など企業内で雇用形態ポートフォリオが構築されるような形式などが考えられます。既に多くの日本企業が試行錯誤しながら、メンバーシップ型雇用ベースの新たな雇用形態の創出に尽力しています。


最後に、故P.F. ドラッカーは、1999年に発行した著書「明日を支配するもの」内で、以下のような言説を唱えています。


私は、日本が、終身雇用制度によって実現してきた社会的な安定、コミュニティ、調和を維持しつつ、かつ知識労働と知識労働者に必要な移動の自由を実現することを願っている。これは、日本の社会とその調和のためだけでない。おそらくは、日本の解決が、他の国のモデルとなるであろうからである。なぜならば、いかなる国といえども、社会が真に機能するためには、絆が不可欠だからである。

繰り返しになりますが、メンバーシップ型雇用こそ、長い日本企業の歴史を支えてきた文化を創り上げてきたエンジンであり、日本社会の安定性と生活の質の高さをもたらしてきた源泉です。そんなメンバーシップ型雇用が主流であった日本で現在進行形で起きている、この雇用のアウンヘーベンは、おそらく世界のどの国よりも先を行く、いわば最先端の試みなのです。そして先述した社会の安定性や生活の質の高さに関するインデックススコアに加え、2024年1月11日、東京証券取引所に上場する株式の合計時価総額(ドル建て)に、中国の上海証券取引所を上回りアジア首位に返り咲いたことも踏まえると*13、このアウンヘーベンは間違いなく成功へと近づいているといえます。また、このアウンヘーベンによって生まれた新たな雇用形態こそ、近年多くの若者が悩む"キャリアのモラトリアム"のソリューションとなりうるのです。なぜなら、安定した雇用環境下で、多くの職務選択肢と、その選択肢を突き詰める環境が提供されるからです。


日本企業の皆様には、ネガティブキャンペーンが展開される傾向にある各企業の雇用形態に対し、是非自信を持っていただくと共に、採用活動においても、大手を振って自社の雇用制度を誇っていただきたいと考えております。


(編集:Jelper Club 編集チーム)


出典・注記


1. 「ジョブ型雇用の真実」(財務総合政策研究所):https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2021/lm20220215.pdf


2,6. 「日本独特のメンバーシップ型雇用が変化への対応と成長を阻んでいる」(Harvard Business Review):https://dhbr.diamond.jp/articles/-/8103


3. 「「日本仕様のジョブ型雇用」とは何なのか(1)-戦前まで遡る歴史とその取り組みを振り返る-」(ニッセイ基礎研究所):https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75993?pno=2&site=nli


4. 「濱口桂一郎:ジョブ型とメンバーシップ型の世界史的源流」(三田評論):https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/features/2023/02-2.html


5. 「「ジョブ型」導入後に、チームワークを最大化させる4ステップ」(Robert Walters):https://www.robertwalters.co.jp/hiring/hiring-advice/teamwork-maximize.html


7. 「三位一体の労働市場改革の指針」(内閣府):https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/roudousijou.pdf


8. 「4 社に 1 社が、新卒採用に「ジョブ型」を導入。導入企業の半数以上が「適性のある人材の母 集団形成」に手ごたえをつかむ/採用担当者アンケート」(学情):https://service.gakujo.ne.jp/wp-content/uploads/2023/10/220325-comenq.pdf


9. 「脱・年功序列=中高年冷遇?」(日本経済新聞社):https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD0713F0X00C22A9000000/


10. 「定例記者会見における中西会長発言要旨」(日本経済団体連合会):https://www.keidanren.or.jp/speech/kaiken/2019/1223.html; 2019年の経団連会長の中西会長の発言とは、以下の記載を指す

「新卒一括採用・年功序列・終身雇用をセットとする従来の日本型雇用システムでは、こうした転換に対応できる人材は育ちにくい。企業における雇用形態の変化と社員のエンゲージメントの向上が一体となって進んでいくようでなければいけない。こうした中、これまでの日本型雇用システムだけというわけにはいかず、ジョブ型雇用などを組み合わせていくことになるであろうし、それが雇用流動性を高めることにもなる。実際、企業は経済価値・環境価値・社会価値を重視しており、社員にしても、自分の仕事が社会に貢献しているとの認識が充実感や、やる気につながる傾向が強い。この変化をよく踏まえ、労使間でも議論を深めていく必要がある。」


11. “Global Peace Index 2023” (Institute for Economics & Peace): https://www.visionofhumanity.org/wp-content/uploads/2023/06/GPI-2023-Web.pdf; Quality of Life Indexと同様、インデックスが大きい=平和度が高い、という前提で確認するため、元のインデックスの逆数×100の処理を実施。


12. "Quality of Life Index by Country 2024" (NUMBEO): https://www.numbeo.com/quality-of-life/rankings_by_country.jsp


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